■ルールは賢く利用するもの - 採点競技の闇-

中国が今年は中国杯をやらないというニュースで溢れたのはつい1週間くらい前のこと。
オリンピックの準備のためらしいという話もありましたが、今日のニュースを聞いてもしかしたらその影響もあるのではと思える出来事がありました。
平昌オリンピックのジャッジを巡って、中国ジャッジに対して下記のような裁定が下されたというもの。

最初に感じたのは違和感でした。
なぜって、あからさまなことをやったのは中国だけじゃないと思っていたからです。
そう、アメリカだって、お国びいきのジャッジだったじゃん、と思い出したわけです。

なのになぜ中国だけ?と感じました。
感情的に見れば私にとってはどっちもどっちでした。
でも、この両者には明らかな違いがあります。

ルールを守ったか、守らなかったか、というそれです。

フィギュアスケートのルールの中では、ジャッジの出す点数が全体の平均点から上下を含めて基準に収まるように、と定義されていて、その範囲を超えると、なぜ、そうしたかなどを説明しなければいけない、場合によっては今回のような処分がされると決まっているのです。

中国はルールを抵触するほど自国の選手を爆上げし、アメリカはルールに抵触しないように自国の選手に点を盛りつつも、他国の選手の点を低めにつけるという方法に出ました。
道義的にはどちらも一緒ですが、ルールにのっとているかどうか、という点で大きく異なります。
アメリカはルールを最大限に利用し、自国選手に有利に働くような対応をしたということです。

「ずるい」という感覚はもちろん私にもあります。
別の見方をすると今年までのジャッジングシステムはそこまで点差をあからさまにつけられるような裁量が許されていたのです。
「ジャッジは絶対だ」とか、「ジャッジがそんなことをするわけがない」と連呼してた人たちはこの事実をどう受け止めるのでしょうか?

私はずっとプロトコルを見て、明らかに下ブレしてるジャッジがいる、上ブレしているジャッジがいると感じていました。
ジャッジが匿名でなくなったことでその裁量の範囲が自国選手の爆上げのために使われてるということがファンの前に明らかにされただけなのです。

私は常々、フェアに戦うってどういうことだろう、と考えます。
それは良心に沿うものではなく、ルールに沿うものなのだというのが私の結論です。
ルールを破らない範囲では何をやってもいい、それがスポーツなのです。

だから、中国は罰せられ、アメリカにはお咎めがないのです。
結果として似たような状況になっていたとしても。

来シーズンからの新しいルールになってもこの傾向は変わらないでしょう。
さらにGOEの幅が広くなったことで、もしかしたら裁量はさらに広がるのかもしれません。
もしかしたら、今回の処分はそういうことに対する抑止力として働かせようという意味があるのかもしれません。

採点競技にはこういった傾向は必ずあります。
試合を見ながらモヤモヤすることも。
それを飲み込んだ上で、楽しめるか、というのを問われているような気がします。

だからこそ、羽生結弦は何度も、何度も口に出して言っていたのだと思います。
圧倒的に勝ちたいと。
こういう操作ではコントロールできないほどの高難度で、完成度の高い演技を目指したのだと。
それがオリンピックで2連覇する唯一の方法だと、彼自身も、オーサーも知っていたのだと思います。
そのために彼には不要だと言われた4Lzにも挑戦したのでしょう。

結果は彼が想定したものではありませんでしたが、圧倒的に勝つという目的は果たしたのかと思っています。

人間が採点する以上、それが絶対評価になることはないでしょう。
これからルールが変わっても、勝ちたいと渇望する国はルールを最大限に利用し、自国の利益を求めるでしょうから。
中国は今回のことで、次はもっとうまくやるようになるかもしれません。

それが採点競技の限界なのでしょうね。
ルールをどう塗り替えても、誰もが納得するようなルールを作ること、運用することは難しいと思います。
機械がすべての採点を行えるようになるまでは。

勝ち続ける絶対王者と呼ばれるスケーターはその思惑も乗り越えるほどの圧倒的強さを持ったスケーターなのでしょう。
私が追いかけてきたのは、そういうスケーターでした。

新しいシーズン、ルールは大きく変わります。
それでも彼と、彼のブレインは彼の強みを生かして、ルールを最大限に生かし、勝とうとしていくでしょう。
その中で、もしかしたら、また、モヤモヤしたものを見るかもしれません。
そんなことが起こったとしても、彼は最後にはそれを乗り越えるのだと信じています。
そう、彼が戦い続ける限り。


そして、そんなスケーターが氷を降りるとき、私はこの競技への興味を失うのかもしれません。
だって、すっきりしないんだもの。(本音)。