■Last Chapter -君を追いかけた日々 その5 -

江陵アイスアリーナの色あいが紫になっているのを見た時、このバックグラウンドは絶対にバラ一の衣装も、SEIMEIの衣装も映えるとそう感じてました。
実際に自分で撮ってきた写真を見ても、もう、それは彼のためにあるような舞台でした。

だからきっと彼は勝つだろ、とぼんやりと考えていたのです。
もう、なんの根拠もないのですが。

11月、NHK杯の4Lzの練習中に怪我をしたと聞いた時、血の気が引きました。
私の友人の医療関係者たちはオリンピックに間に合わないだろうと口を揃えて私に言いました。
彼らの言うことを信じるわけにはいかなかったので、私は神頼みをすることにしたのです。
そう、禁酒(で、何が変わるのと、自分でも突っ込んだわ)。
苦しいときの神頼みかよ、と言われそうですけども、それしかできなかったんですもの。
多くのファンが思ったように、私のへっぽこな足でよければ変わってあげたかったですよ、もちろん。

さらに、日本選手権に出ないと聞いたとき、きっと選ばれるだろうけれど、いろんなことを覚悟しなきゃいけないな、と感じたのも事実です。
どこかで、彼がオリンピックに出れなかったら、私の韓国の旅は食い倒れツアーに変わるだけだわと開き直ってました。

だから、初めて彼が仁川空港に降り立った映像を見たとき、ああ、もう、覚悟をする時間がきた、とそう思いました。
彼がとても静かな雰囲気だったのにびっくりしたのを覚えています。
なんだか悟りを開いた僧侶のようでしたから、空気が。

彼がここにきたと言うことはどんなことになってもやり遂げる気だ、と私は漠然と感じたのです。

中国杯でのファントムを思い出していました。
無謀だとたくさんの人に叩かれていたけれど、彼はどこかで、氷の上で死ねるなら本望だと思っているのでは、と感じるような瞬間でした。

やると決めた彼はきっと何を犠牲にしてもやり遂げる、と思えたのです。
それが羽生結弦と言う人だと。

それに、彼はただ滑りにきたのではなく、二つ目の金メダルを取るためにきたのでしょうから。

その頃、私は、どんな結果になっても、苦しくても、辛くても、最後の瞬間までしっかり見届けると悲壮な気持ちで心に誓っていました。
自分の旅の準備をしつつ現地からくるわずかな情報を一生懸命追いかけてました。

本当のことは何一つわかりませんでした。
オーサーの強気な言葉と、控えめな練習。
私たちですら翻弄されていたのです。

今回は蓋を開けるまで分からないな、と感じていました。